藤田恵名という海藻
しがない制作会社をやっている。
弊社は「藤田恵名」という歌手を世の中の、主にインターネットにお届けしている。
僕の具体的な業務はというと主に編曲と企画なのだけれども、そういうことではなく「藤田恵名」という歌手を世の中の、主にインターネットに弊社はお届けしている。
これからの音楽活動におけるプラットフォームはインターネットだ!なんていう10年前にコスリ尽くされた議題の回答の1つをさもありなん、と声高に宣言しておるのではなく、
インターネットでの知名度とライブイベントでの集客の乖離がこれほどまでに大きいアーティストもいねえんだろうな、という意味で結果的に「主にインターネットにお届けしている」ということになる。
このエントリを読んでいるような諸兄はご存知かと思うが、藤田恵名は「今いちばん脱げるシンガーソングライター」なんてキャッチコピーを掲げている。
テキトーに、なんとは無しブラウジングしているところにそんな文字列が目に入ろうもんなら、まあ一定数シュバってくるっつー絵面は想像に難くないし、私自身もインターネットの糞溜め滞在歴が長いんで心情としてはわかりますよ。
ブログやらSNSのアカウントを持って定期的に、または恒常的に自分の何かを発信しているような人のその大部分は、僕たちが社会に出たその瞬間に粉砕されたはずの全能感をまだ捨てきれていないんだと考える。
そんな人達にとって藤田恵名は安心して見下せるトピックなんだろうし、それに関してはこちらも織り込み済みではある。
弊社やレーベルはその評価を覆そうと思案をめぐらているのだが、今は投資の時期なのかもしれないし、もしかして悪手を打っているのかもしれない。そもそも正着のないタレント像なのでまさに暗中模索という感じである。
2019年2月2日に新宿Club Scienceで藤田恵名ワンマンライブ「完全体解体ワンマンライブ」を開催した。
タイトルはなんとなくガイドを提案しつつ藤田本人に決めてもらった。個人的にはあんまりピンと来てなかったが、最終的には言葉遊びが好きな彼女に任せた(これが作詞ならそうはいかないが)。
VIPチケットという一般開場前に藤田恵名本人のあいさつ&握手会という特典付きの券種を、会場キャパの関係から70枚だけ用意させて頂いたがこれはあっという間にソールドアウトとなった。
ご覧の通りステージもそこまで広い会場でないため、この時点でフロアは結構な密度となっており、本番やべーかもという心配が少しよぎる。
この日のセットリストは以下のとおり。
01.i can not feel the end
02.WAR I NEED
03.黒いパルフェ
04.3PM
05.私だけがいない世界
06.等価交換
07.ライブドライブ
08.こぼれる ハイライト
09.千載一遇ド真ん中!
10.あの日のハイファイ
11.青の心臓
12.ヒロインになれない
13.TRIP DANCER
14.月が食べてしまった
15.永遠の音
16.404NotFound
17.6時のカタルシス
18.境界線
19.噂で嫌いにならないで
20.言えない事は歌の中
藤田恵名を隣で7年見てきた。
2014年に一度メジャーデビューをして、いろいろあったのち2016年に今のレーベルであるキングレコードから再度メジャーデビューをした。この辺の「いろいろ」は過去のエントリを見てくださいということで割愛。
7年あったら「たのしいてれびくん」を読んでいた幼稚園年長のお子さんも、週刊マガジン読者の中1にジョブチェンジしているわけであるから、それは藤田恵名だって例外ではないし、隣でギターを弾いてきた僕もすっかり白髪が増えた。
今回のセットリストのうち実に18曲が2016年以降に作った曲だ。昔の曲はやらなくなった。今の藤田恵名に必要ではないから。我々の生活基盤であるお客様からのリクエストがあったとしても譲れないものはある。
藤田がこの世界に何かを記そうとするのであれば鉛筆削りを回し続け、過去を削り落としてでも尖っていなくてはいけない。それはとても勇気のいることで格好いいことだと思うし、あんまり儲かってないこの仕事を私が続けている理由でもある。
慢心して努力をしなくなるタイプのタレントなので僕は口ではあまり褒めないが、彼女の人前に出るための覚悟みたいなものにはずっと憧れている。
いま一般市場で買える藤田恵名のCDはキングレコードから出ている4枚で、いまの藤田恵名がライブで演奏するのは九分九厘そこからの選曲になっている。
最近藤田恵名を知って、ライブに来るのは今回が初めてというお客様も多かったようだけど、そういう人もCDさえ聞いていればスッとライブに入れると思う。
でも演出的な面からセットリストを考えたときに、そういうもはや約定化している慣習っていうのがすごく萎えるもので、ワンマンライブのときくらいは何か出来ないかと毎回考えるわけです。
そういうわけで1〜4曲目をドルチェの曲で、かつドルチェの姿でやろうとなった。なったというか勝手に決めた(ドルチェについては過去エントリ参照願います)。
ポリープ手術終わってすぐのワンマンライブということで、ド頭からブチ食らわせてやりたかったというのがまあ一番の理由。ギターを持たない純然たるボーカリストとしての藤田恵名の能力値というか、そういう皆さんが知らなかった忘れかけていたであろう"圧"を一発目に見せたかった。
皆さんびっくりしてくれてありがとう。藤田恵名はあいつはすごい奴なんだよ。
ガッツリとドルチェなので流石に我々も衣装を着た。2年ぶりくらいじゃないかと思う。あと角が生えてるし節分だからといって豆をまいたのだけども、そういう自由さもこのスタイルのいいとこだなあと久しぶりにやって思った。
マスコットのロイもご機嫌だ!
もうひとつ狙いというか、藤田のライブ評として曲とMCとの緩急が良いと散々言われているので、ステージ上でゆるく衣装チェンジをしてみた。去年夏のワンマンライブで、ステージ生着替えというやつをやってみたらライブに明確なメリハリが生まれたため今回も採用。
バカバカしい。
こんなことをお客様のためにちゃんとやってくれる藤田には本当に頭が下がる。この間あったスタッフAちゃんの面白エピソードなんてMCはクソ食らえだ。テメーんちのゴミ箱にでも向かって喋ってろ。
藤田恵名を隣で7年見てきた。
2014年に一度メジャーデビューをして、いろいろあったのち2016年に今のレーベルであるキングレコードから再度メジャーデビューをした。7年前に対バンで共演してたような人たちは今はもうほとんどいない。藤田なりの生存戦略で生き残ってきた7年だ。
だけども、皆は知らないだろうけど、2014年のメジャーデビューから藤田はずっと夢の中で音楽活動をしている。
1度目のメジャーデビューで辛酸を舐め、泥をすすりながら這い上がって、今では『ロックとエロスを撒き散らす』なんて見出しでニュースになったりする。でも「水清ければ魚棲まず」なんて言うけれど、それは泥魚だから泥の中が見通せるって話ではない。
頼りない青い照明の中で歌う藤田恵名が好きだ。誰も居ない海の中でいつか死ぬのを待つような、そういう種類の心細さを彼女の背中に見ることができる。それはたぶん僕だけが感じる藤田恵名のリアルだ。
新曲すごい格好良かった!
脱がないと勝負できないの?
批判する人はライブ見たら見る目絶対変わると思う。
サムネに釣られて歌聴いたけど下手じゃん。
そういったインターネットという有象無象の、好意であったり悪意であったり、もっと言えば無関心にさえ心を逐一動かされるくらい、藤田恵名は自分の表現を信用していない。
だけど藤田恵名はお客様の前ではプロフェッショナルだ。自信があろうがなかろうが、開き直ってしまえばその瞬間だけは圧倒的藤田恵名だ。だから藤田恵名はライブが好きだ。制作が苦痛だ。
僕だって作品を「自信作です」なんて言える奴はすごいと思う。というか正直言って嫌いな部類だ。でも納期がある以上は手を動かさなきゃいけないし、世の中に出す以上は「自信作」じゃなけりゃお客様に失礼だ。
それが「藤田恵名」という歌手を世の中に届ける、藤田や僕の責任と挟持だ。
原始、クソを投げ合い、自由に泳げたはずのインターネットという海はいつか住みづらい村になった。
それからまた時間が経って今ではもうマジョリティとポリコレが支配する監視社会となった。
文を綴るもの、絵を描く者、そして歌を歌う者にはPVという絶対的な物差しが突きつけられた。
日本ブレイク工業社歌が人気だった原始の海を知らない藤田恵名にとって、それは何ら違和感のないこの世界の骨組みなのだと思う。だからSNSのフォロワーが増えれば嬉しいし、低評価が多ければ嫌な気持ちになるのは当然だ。
動画の再生回数はこの7年間ずっと教えてくれていた。自分は売れてはいないのだ、ということをずっと藤田に突きつけてきた。
だからこそ、新曲のMVが示す100万再生という数字が、少し藤田を混乱させ、その何倍も藤田の自信になったかもしれない。と僕は勝手に思う。
実はポリープの手術を終えて1ヶ月ほど経ったころ、また藤田の喉に不調が現れた。
本人は酒のせいと思っているようだし、周りからは風邪からくるものの様に見えてもいたが、なんにしても少し藤田は焦ったようで一週間ほど前から吸入やボイトレを始めた。
それも小さな自信になっていたんだろうと思う。いざワンマンライブを迎えるとそこには全盛期の藤田恵名が立っていて圧倒的なステージを見せてくれた。全20曲を綻びなく歌いきった藤田が楽屋に戻って発した言葉は「声出た!」だった。
ボーカリストとしての当たり前が、ようやく藤田のところへ戻ってきたのだ。
ワンマンライブのためのスタジオリハの中で、不調だった藤田が「なんでガー子さんは20曲に拘るんですか?」と不貞腐れたことがあった。歌いきれる自信がない、ということだった。
1曲平均4分として20曲=80分。自分が客として誰かのワンマンライブに行ったときに2時間のうち歌が60分で満足したってほんとに言えんのか?というような返事をしたと思う。
お前なら20曲歌いきれるし、歌いきったら今後の自信になるだろ。というのが本心だったが、感情的な藤田にはロジックで返すのが正着だと経験で知っているのでその時は言わなかった。
そうして小さな自信を獲得していくことが、おそらく夢の中でふわふわ浮いている藤田恵名の目覚めにつながるんだと思う。現実に戻ってきた藤田恵名がそのとき水着で歌っているかどうかはわからないが、今よりもっと「圧倒的」だってことは確信できる。
今は20曲「声出た」ことが藤田の自信になっているだろうか。今度あったときにそれを聴いてみたいと思う。
最後に。
なぜ不詳田渕、こんな気持ち悪い文体で記事を書いたのか申し上げますと、今回のワンマンライブの差し入れでいわゆる「ライトノベル」という物を受け取りまして、うおーキッツゥー、こいつぁヤクいぜ!なんて言いながら読んでたんですけど、もう最後ボロッボロ泣いたんで、おっとこれはちょっとラノベ作家を目指そうかなみたいな気持ちに少しなりまして、わたしラノベのこといっちょんわからんけど頑張ってラノベっぽく書いてみたっていうか。さすが田渕、アヒル野郎だねって思いましたね。それではまた。