不完全なヴィランの魅力 藤田恵名ワンマンライブ「BIKINI RIOT」
内藤哲也というプロレスラーがいる。
実力もルックスも持っていた内藤は2010年代の新日本プロレスの時期エースとして期待されていた。
内藤には3つの目標があった。新日本プロレスのレスラーになること。20代でIWGPヘビー級王座を獲ること。東京ドーム大会のメインイベントで試合をすること。
しかしながらおそらく運や求心力は持っていなかった。新日本のレスラーにはなれたが、他の2つは手に入らなかった。
次第に客から見放されていき、試合をすれば「しょっぱい」とブーイングを浴びるようになった。
このままではレスラーとして終ってしまう、と感じた内藤は何かを掴むため単身メキシコに渡った。「何か」であって明確な目的のない渡航だった。
しかしこのメキシコで一緒に試合をした仲間に内藤は感銘を受けた。彼らはLOS INGOBERNABLES(制御不能な奴ら)と名乗っていた。
ロスインゴに加入した内藤はその後帰国、それからすぐに新日本プロレス、というより日本プロレス界の中心人物となって一大ムーブメントを巻き起こしていった。
この内藤の変貌について、傍から見ればいわゆるヒールターンなのだが、たぶん本人は自分のことをヒールとは定義づけてないのではないかと思う。
カテゴリやジャンルなんてものは些末なことで、そのとき、自分が思ったことに忠実であればいい。そういう信念に基づいた内藤のプロレスが仲間を集め、ファンの支持を得ていった。
藤田恵名ワンマンライブのレポートらしきタイトルなのに、一体なぜプロレスの話が始まったんだい?
藤田恵名のファンでない方はそう思われたことでしょう。すいませんね。
藤田恵名のファンの方には内藤哲也の物語に、多少でも藤田恵名が重なって見えたんじゃないかと思う。
2019年7月7日、新宿ReNYにて藤田恵名バースデーワンマンライブ『BIKINI RIOT』を開催した。
本人の20代最後の誕生日である当日はあいにくの悪天候であったが、おかげさまで会場のReNYは満員であった。いつもありがとうございます。
写真はいつもおなじみ小林弘輔さん。毎度ありがとうございます。
今回は2バンドの構成でライブを行った。通常のバンド編成とアコースティックでのバンド編成。
藤田本人は弁明しないだろうけど、リハーサルのときから少し喉が辛そうだった。天気のせいかもしれないし、久しぶりに使ったスモークのせいかもしれない。本番に影響が出てしまったことを悔やんでいた。
今回使用したバックドロップのロゴはアクセサリーデザイナーのJunya tasakiさんに作成していただいた。ジュンヤさんありがとう。
この日発売のリストバンドにもロゴを使用しています。
同じくこの日発売の藤田恵名2019Tシャツのデザインは昨年と同じくイラストレーターの大熊まいさんにお願いした。
僕の描いたクソみてえな原案を元に「(ソシャゲでいうとこの)SRくらいの強さで」みたいな漠然とした注文をしたのだが快く応じて頂きました。いつもありがとうございます。
新作グッズは藤田恵名通販サイト『わがままショップ』にて後日取り扱いを開始しますのでお待ちください。
http://fujitaena.shopselect.net/
今回のワンマンライブはAbemaTVのSPECIALチャンネルでの生放送を行った。
ライブの翌日、僕も見逃し配信で鑑賞した。
コメント欄に金言が転がっていることなど非常に稀有ではあるのだが、僕は批判も含めて感想を知りたいのでコメントを流しながら観た。
Vo.藤田恵名、Gt.田渕ガー子、Ba.浅倉高昭、Dr.森田龍之助。この4人でメインバンドを務めた。
藤田と僕は付き合いが長いし深い。お互いに大体の思惑が分かるし、ステージ上なら尚更分かる。台所のお母さんの背中から不機嫌を察知できるような、そういう感じ。
ベースの浅倉くんとドラムの龍之助くんは「青木まりこ現象」というバンドをやっている。バンドメンバーというより普通に友達で、だいたいいつも中央線沿いで呑んでいるとのこと。本当に仲が良い。
そういう2つの関係性がトップスとボトムスで上手く収まっているというのがこの藤田バンドの良いところだと思っている。意思疎通のシナプスは多い方がいい。
ちなみに僕の新しいギター。ESPさんのモニターとして使用させていただいています。僕みたいなクソザコナメクジに本当ありがとうございます。トーンノブがコイルタップになっていてセンター時の微細な云々って興味ねーか。
足元はLINE6のHELIX LT。使い始めで音作りが間に合わなそうだったので、シミュレータは使わずアンプのインプットから直接云々って興味ないよね。
AbemaTVのコメント欄には「歌で勝負できないから脱いでるの?」というかれこれ6千万回くらい見たコメントが、いつもどおり載っていた。
歌で勝負とはどういう事だろうと考える。
いま売れている、TVで見かけるナントカさんとか、カントカちゃんとか、そういう人たちは歌の良さだけで売れたんだろうか。
レーベルが仕掛けるブランディングやメディア展開の戦略とか、そういった一切のハイプを行わずに歌の良さだけでスポットライトを浴びたということなんだろうか。
そう思うのであれば、君がタピオカ屋に並ぶことを僕は咎める気はない。
そして藤田恵名は今のところブランディングがうまく機能していない、それだけのことだと思っている。我々が的はずれなのかもしれないが。
「水着目当てで来てる客ばっかりだろ」というかれこれ8千万回くらい見たコメントも、いつもどおり載っていた。
僕は物販で接客しているからよく分かるんだけど、そういうお客様も年に10人くらいは来る。それ自体はどうでもいい。ただその人が2回目のライブに来たとき、目的がもうそれでないことを知っている。
藤田恵名は大晦日のテレビで愛や平和を歌うヒーローではない。1000人も収容できないライブハウスで、自分の誕生日に世界への失望と怨嗟を歌うヴィランだ。
足を運んで藤田恵名のライブを観に来るお客様は、そういう藤田恵名の気迫と物語に魅せられた変わり者たちだ。いつもありがとう。
セットリストはアコースティック編成でのライブとなった。まぬけになっちゃうんで、ということで白いワンピースを着た。
「MISIAと同じ誕生日なんですよ。MISIAおめでとう。このアコースティックセクションはMISIAになりきって歌い上げたいと思います。」
会場からは小さな笑いが漏れる。
歌しかやってこなかった、といつも藤田は言う。僕から見ても歌しかできない女だと思う。言葉も知らなければ計算もできない、人間関係は大体上手くいかない。私生活だって褒められたものではない。
その「歌」を食い物にする世界から見捨てられた藤田は、闇落ちしてヴィランとなった。きれいなおうたで寝ぼけた奴らを、剥き出しの言葉と肌で刺す悪者になった。
世界中が藤田を罵った。それならば世界中が藤田の敵だ。
アコースティックバンドはVo.藤田恵名、Gt.肥沼武、Ba.小林健二郎、Dr.平川萌という編成。既存曲をアコースティックに落とし込むために何度もスタジオでリハーサルしてくれた。感謝。
ベースの小林さん以外は初めてのワンマンライブということでプレッシャーもあったと思うけど、お客様に非常に好評で本当よかった。
ギター肥沼さんは僕の数少ないミュージシャン友達で、普段はちょっと特殊な表現を用いた音楽をやっている。
https://tks-ymktrd.localinfo.jp/
ドラムの平川さんは龍之助くんと同じ道場の仲間。ちなみに今回のライブで使用したドラムセットは二人の師匠である村石雅行さんの私物をお借りしたとのこと。道場生でもある程度の実績だとかそういうのがないと借りられないそうです。
アコースティックパートでは4曲を演奏。MCを入れる予定はなかったのだが、気持ちが入ったためか全曲間にMCが入った。
いつものグダグダなMCではなく、曲の雰囲気づくりとしての語りのMC。藤田恵名の中にあるMISIAだとか絢香だとか、青春時代に憧れたヒロインたちの影が少し見えた気がした。
ヒロインになれなかったことへの、諦めたような笑顔だろうか。
藤田恵名の新作アルバムは『色者』というタイトルだ。ヴィランであることは本人が一番わかっている。でもほんの少しまだどこかで、メジャー然とした、王道というようなものへの憧れを諦めきれていないのが藤田の愛おしいところだと僕は感じる。
アコースティックパートが終わり再びバンド編成へ。
MISIAがステージ上で生着替えするわけあるか!
ガーコ、リュウノス、アサクラ、イ・フジタ、ノスオトロス
孤独な悪役の藤田恵名がパレハ(仲間)を増やし、お客様を巻き込み、でも不完全なまま突き進んで行く様は痛快だ。全部殺して墓石にクソぶっかけてやれ。
本編終わってアンコールへ。
最後2曲で出し切ったのか、翌日藤田の声が出なくなっていた。でもそれが藤田恵名のライブだ。生涯かけて削っていく者の生き様だ。お前に理解られてたまるか。
おかげさまで大きなアクシデントもなく新宿ReNYでのワンマンライブ&AbemaTV生放送を終えることができました。
ご来場のお客様、ご視聴いただいた方、本当にありがとうございます。
藤田恵名が内藤哲也になる日も遠くないと、僕は思っております。
内藤といえば夏の祭典G1クライマックス29がとうとう始まりましたね!
飯伏まさかの黒星発進で波乱のAブロッ(次回『田渕とアニメとプロレスと』前編に続く)